「処遇改善加算を取りたいが、要件が複雑でよく分からない」「小さな事業所なので、就業規則も賃金表もない」。介護事業所や障害福祉事業所の皆さまから、こうしたご相談をよくいただきます。

処遇改善加算は、職員の賃金を上げるための大切な財源です。ところが、取得するには賃金体系や昇給の仕組みを「書面で整えておくこと」が求められます。そのため、「就業規則がないから、うちはまだ取れない」と取得をあきらめてしまう事業所も少なくありません。

実は、就業規則などが整っていなくても、先に処遇改善計画書を提出し、年度内に整備するという進め方ができます。今回は当事務所がサポートしている事例をもとに、処遇改善加算の新規取得と就業規則の新規作成を一緒に進め、さらに人材確保等支援助成金の活用にもつなげる方法をご紹介します。

処遇改善加算とは

介護サービスでは「介護職員等処遇改善加算」、障害福祉サービスでは「福祉・介護職員等処遇改善加算」という名前で、職員の賃金を改善するために報酬に上乗せして支給される加算です。名前は違いますが、仕組みや要件の考え方はほぼ共通しています。受け取った加算額は、全額を職員の賃金改善に使う必要があります。

加算の区分に応じて、主に次のような要件があります。

  • キャリアパス要件Ⅰ:職位・職責・職務内容に応じた任用の要件と賃金体系を定め、就業規則などで明文化して職員に周知すること
  • キャリアパス要件Ⅱ:職員の資質向上の目標と、研修などの具体的な計画を定めること
  • キャリアパス要件Ⅲ:経験・資格・評価に応じて昇給する仕組みを設け、就業規則などで明文化すること
  • 月額賃金改善要件:加算の一定割合以上を、基本給や毎月決まって支払う手当の引き上げに充てること
  • 職場環境等要件:採用・育成・両立支援・健康管理・生産性向上・やりがいなどの区分ごとに、決められた数以上の取り組みを行うこと

このうちキャリアパス要件などは、計画書を提出する時点で整っていなくても、年度内に整備することを誓約すれば算定できます(令和8年度は、令和9年3月末までの整備を誓約)。つまり、「先に加算を取り、その年度のうちに就業規則や賃金表を整える」という順番で進められるのです。

なお、新たに取得する場合は、算定を始める月の前々月の末日までに処遇改善計画書を提出する必要があります。

当事務所のサポート事例(県内の小規模事業所 B社様)

B社様は、職員10人未満の小規模な事業所です。10人未満の事業所には就業規則の作成・届出の義務がないため、これまで就業規則がなく、次のような課題を抱えていました。

  • 賃金の決め方、手当、昇給の基準が文書になっておらず、職員に説明しにくい
  • 経験年数や資格に応じた賃金表がなく、処遇の公平性を示しにくい
  • 地域の同業他社には賞与がある事業所が多く、採用面接で不利になる
  • 職員の入れ替わりが多く、人材の定着が大きな課題になっている
  • 処遇改善加算を取得していない

こうした状況は、介護・障害福祉を問わず、小規模な事業所によく見られるものです。B社様では、次の流れで進めることにしました。

1. まず処遇改善計画書を提出する

就業規則の完成を待っていると、加算の取得がその分遅れてしまいます。そこで、キャリアパス要件などは年度内に整備することを誓約したうえで、先に処遇改善計画書を作成・提出しました。

計画書では、職員の研修計画や職場環境の改善の取り組みを整理し、加算額のうち基本給などで毎月支払う分(ベースアップ)と、手当・一時金で支払う分の配分も、事業所様と相談しながら決めています。

2. 年度内に就業規則を作り、賃金表と賞与制度を整える

誓約した要件を満たすため、続いて就業規則を新しく作り、労働基準監督署に届け出ます。キャリアパス要件を満たすには、任用の要件や賃金体系、昇給の仕組みを就業規則などで定めて職員に周知する必要があるため、処遇改善加算を続けて受けるには就業規則が欠かせません。

この事例では、就業規則とあわせて次の2つを整備しました。

  • 賃金表:勤続年数・資格・役職に応じて昇給する仕組みを、表で分かるようにしました(介護福祉士、保育士、児童指導員などの資格を評価)
  • 賞与制度:これまでなかった賞与を新たに制度として定めました

就業規則には、このほかに次のような内容も盛り込んでいます。

  • 正社員・短時間正社員・契約社員・パートタイマーなど、雇用区分ごとの定義
  • 各種ハラスメントの禁止と、相談への対応
  • 処遇改善手当・ベースアップ手当の位置づけ
  • 契約社員・パートから正社員への転換制度

就業規則と賃金表で定めた「役職ごとの役割と賃金」「勤続・資格に応じた昇給の仕組み」が、そのまま処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅰ・Ⅲの根拠になります。

3. 同じ制度づくりで、人材確保等支援助成金も活用する

今回整備した「賃金表(賃金規定)」と「賞与制度」は、人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)の対象になる制度でもあります。処遇改善加算のために整える制度を、そのまま助成金の活用にもつなげました。

1つの制度づくりで、「処遇改善加算の取得」「職場のルールの明確化」「助成金の活用」の3つにつなげる。これが今回のサポートのポイントです。

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)のご案内

賃金規定(賃金表)、賞与などの諸手当制度、人事評価制度、研修などの職場活性化制度、健康づくり制度といった「雇用管理制度」を新たに導入し、職員の離職率の低下につなげた事業主に支給される助成金です。介護・障害福祉の事業所に限らず、中小企業の皆さまが活用できます。

ただし、制度を導入する前に計画を提出することが条件です。就業規則を施行した後では対象にならないため、制度づくりを始める段階でご相談ください。

▶ 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)(厚生労働省)

進めるうえで気をつけたいポイント

1. 処遇改善加算は、届出の期限から逆算する

処遇改善計画書は、算定を始める月の前々月の末日までに提出します。就業規則が整っていなくても、年度内の整備を誓約して先に提出することができますので、「準備ができてから」と後回しにせず、早めにご相談ください。

2. 誓約したら、年度内に必ず整備する

誓約で算定を始めた場合は、年度内に就業規則などの整備を終える必要があります。整備が間に合わないと、加算の返還を求められるおそれがあります。

3. 加算と手当の関係を就業規則ではっきりさせる

処遇改善加算は、全額を職員の賃金改善に充てる必要があります。どの手当を加算から支払うのか、加算がなくなった場合はどうするのかを、就業規則・賃金規定に書いておくと、後のトラブルを防げます。

4. 作った制度を職員に伝える

賃金表や昇給の仕組みは、職員が知っていてこそ意味があります。説明会や面談で丁寧に伝えることが、職員の納得感と定着につながります。

処遇改善加算・就業規則・助成金のご相談は当事務所へ

当事務所は家業で認知症グループホームの運営に携わっており、処遇改善加算の計画書や賃金表づくりを自分たちの事業所でも実際に行っています。現場の感覚が分かる社会保険労務士として、介護事業所・障害福祉事業所の次のようなお悩みに対応します。

  • 処遇改善加算をまだ取得していない、または上位の区分を取りたい
  • 就業規則や賃金表がなく、キャリアパス要件を満たせない
  • 加算の配分方法や、職員への説明の仕方に悩んでいる
  • 制度づくりに合わせて、人材確保等支援助成金などの助成金を活用したい

介護事業所・障害福祉事業所の労務管理は、宮下社会保険労務士・行政書士事務所までお気軽にご相談ください。